27 光  (犬の独白)。




それは眩いもの。
闇を薙ぎ払うもの。
身の内に巣食った真の暗闇さえも払うもの。
目で見えるそれと似て非なるもの。
見えるそれには、何ら感じることはなかった。
心が動くことなど、ない。
ただ、闇とそうでないもの区別するだけ。
それだけのもの。
しかし、見えないそれには心が揺さぶられた。
見えないけれど、それは「ひかり」のようなもの。
あたたかい。
やさしい。
胸の奥を芯からぬくめるような。
そういう気持ち。
そういう感情。
傷ついたと知れば、まるで我が事のように痛そうな表情を浮かべて。
一度生死を危ぶまれた時などは、顔を歪めてぼろぼろ泣いていた。
その時。
何故に彼女が泣くのか、わからなくて。
本当に俺には、わからなくて。
だから問うた。
「…なんで……泣いてんだよ…」
俺の声に少女は安堵したような、ほっとした顔をみせる。
そして、涙を目の淵に溜めながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「気が付いた」
涙まじりの声で、よかった、と彼女が言ったのが熱に浮かされた耳に入る。
「もう…駄目かと思った…」
「…俺が…?」
だめ…?
俺がくたばるかもしれないって…?
いくら妖力が消えて人間の姿になったとはいえ、体だけは頑丈が取り柄のこの俺が?
そう考えて、少年は無意識に憎まれ口をたたく。
「けっ、くだらねえ…」
しかし、その返答は少女には地雷だったらしい。
な、な…っ、と憤りに言葉を詰まらせたかと思うと、突如、泣きながら叫んだ。
「なによっ、心配してるのに!」
まるで、自分が瀕死なのがさも大事(おおごと)で。
くだらない、と言った最前の言葉を強く打ち消すように。
否、ただしく、彼女は否定しているのだ。
くだらなくは無い、と。
自分は取るに足りぬ、どうでもいい存在ではないと。
求められている、大切な存在なのだと。
欠けてはならぬものなのだと。
そう、言われたに等しい衝撃を受けた。
見知って、そう長い時間を過ごした仲ではない。
しかし、過ごした時間の長さも、自分のこだわりも、なにも関係なくこの娘は飛び込んでくる。
それに、自分は驚きを覚えながらも、それが苦痛ではないのを不思議に思う。
この感情を、
気持ちを、
想いを、
一体なんと呼ぶのだろう。
それは正しく、俺にとっての「ひかり」。
暗闇を照らす一筋の灯。
胸の奥の凍えた氷のような冷えた心を、春のぬくもりでゆっくりと溶かすような。
そんな、ぬくもりに満ちたもの。
人間はすきじゃない。
お袋以外の人間で信用できたやつはいない。
けれど、こいつは。
この娘だけは……。
ほかの誰とも違うこの娘だけは。
変わらず、いつも俺に「ひかり」を感じさせてくれるかもしれない