妖精が視えるという神秘的な金緑の瞳の持ち主に僕は恋焦がれている。
正式に婚約する前からも、婚約を交わした後もその気持ちが変わることなどない。
彼女を目にする度、湧き出すように溢れ出すように込み上げてくるこの未知なる感情に慣れることもなく、寧ろ持て余し気味でさえもあることに果たして愛しい婚約者は気づいているのだろうか。







secret(神秘)







「リディア」

可愛いくていとおしい僕の、僕だけの妖精。最愛の女性(ディアレスト)。

「な、なにかしら?エドガー」

正式な婚約者としてお披露目も済ませ少しずつでも恋人らしい雰囲気にも慣れてくれてもいいと思うのだけれど、彼女は恋人同士のこの距離に途惑う事が多い。今も二人でソファーに座って午後のお茶を楽しんでいたところだったのだが隙間なくぴたりと寄り添うこの距離に、彼女は若干居心地が悪そうな気配すらさせている。恋にも異性にも不慣れな彼女を思えば、それは仕方のない反応なのかもしれないがすこし寂しいと思ってしまう。困ったように視線をうろうろとさせ目線すら合わせてくれなくなることもままあるし、実際にまだ慣れてくれてはいないのだろうとも思う。ただ、彼女はとてもお人好しなので時折すまなさげにちらちらとこちらを伺う気配がすることもあるので、彼女なりに僕を気遣ってくれているのだろうと思うし、顔は見せてくれないまでも薔薇色に染まった耳元を見れば、僕を意識してくれているんだな、と感じられるから寂しい気持ちもすぐにどこかへ行ってしまう。

「きみはまだ慣れないのかな?・・・まあ、そんなきみも可愛いのだけれどね」

エドガーは美味しそうなキャラメルに指に絡めて微笑む。その感触は絹(シルク)を思わせる艶やかな手触りだ。そして、彼女自身の性格を現すかのようなくせがなくて緩やかに落ちる髪は彼の大のお気に入りだ。

「ああ、でもきみの瞳ほど魅了されるものはないのかもしれないね。金色の虹彩に新緑が燃えているようだから。とても魅惑的で神秘的な瞳で何もかも魅了してしまいそうだ。でも魅了するのは僕だけにしてくれ、僕の妖精。」

甘い甘い砂糖菓子に更に粉砂糖をまぶし、その上チョコレートでコーティングでもしたかのような甘い台詞。いつもの口説き文句と分かっていてもリディアは顔を真っ赤にしてしまう。そんな彼女の様子に彼は嬉しそうに目を細めリディアの額の髪を指先で払いのけると静かに唇を寄せた。
ちゅっと軽い水音をさせて額に触れた温もりにリディアは思わず目を瞑る。

「み、魅了なんてしてませんから!」

「うん、魅了するのは僕だけで十分だよ。他に魅了された奴がいたとしても安心して。全部蹴散らしてやるからね。」

満面の笑みでそうぬけぬけと言ってのける婚約者にリディアは頭を抱えたくなる。この独占欲と思い込みの激しさはいかがなものか。言っていることは軽く聞こえそうでもあるが本気にも聞こえる。特に、蹴散らしてやるからね、のあたりが。

「そんな物好きな人いませんったら!人の話聞いてるの、あなたは!?」

「リディアこそ、いい加減に気がつくべきだと思うよ。きみは十分魅力的なレディーなんだから気をつけて貰わないと。」



傍から見たら痴話喧嘩以外のなにものにも見えない様子を本人たちは気づいているのかいないのか。
その場からリディアの相棒を気取った猫妖精の姿がいつの間にか消えているので、第三者の目から見ると惚気にしか見えなかったということかもしれない。








2008.01.20